角膜びらん(再発性上皮びらん)
眼の表面の傷(角膜潰瘍)は外傷やシャンプーなどが主な原因で、目の表面にある角膜に傷がついた状態です。その中でも角膜びらん(再発性上皮びらん)は角膜の上皮がうまく再生・接着できず、何度もびらんを繰り返す慢性的な病気です。びらんになる原因は完全には解明されていませんが、角膜の構造的な問題が関係していると考えられています。


このわんちゃんは、他院で白内障およびブドウ膜炎、角膜の傷と診断され抗生剤、抗炎症剤、角膜保護剤の点眼薬をしていましたが、目のしょぼつきがなかなか治らないという主訴で来院されました。
写真のようにしょぼつきとかなりの涙目で角膜潰瘍があり、角膜上皮がはがれている状態です。
白内障によるレンズ誘発性ブドウ膜炎の治療目的で抗炎症点眼薬をさしていたのも治癒できない原因のひとつであると思われます。

治療は点眼薬やコンタクトレンズ装着もしくは外科処置となり、この子の場合長期の点眼薬治療にも改善しなかったとのことなので、角膜格子状切開を行いました。
滅菌綿棒で剥がれた上皮をデブライトメント(除去)し、細い針を使って角膜の表面に浅い切れ込みを格子状に入れます。この切れ込みが「足場」となり、上皮細胞が角膜にしっかり接着しやすくなります。
処置後は採血し、自己血清点眼液を作製しました。血清点眼には以下の効果や利点があります。
角膜の修復促進:血清にはEGF(上皮成長因子)やビタミンAなど、角膜の再生を助ける生理活性物質が含まれており、傷の治癒を早めます。
炎症の抑制:抗炎症作用があり、角膜の炎症を和らげる効果が期待されます。
副作用が少ない:自分の血液から作るため、アレルギーや拒絶反応のリスクが非常に低いです。

傷は術後1週間ほどで完治しましたが、重度のブドウ膜炎と結膜炎が併発していたため、しばらくはしょぼつきが残りましたが最終的には左写真のように涙目もなくなり、眼もぱっちり開くようになり、ブドウ膜炎も完治しました。今後はブドウ膜炎の再発を注意しながら点眼薬の回数等をコントロールして行きます。
白内障は高齢のため、手術リスクや合併症の発生リスクを考慮し手術は希望されませんでした。私もその方がいいと思います。